「なんでフランスなの?」から始まった — 慶應理工→グランゼコール、ダブルディグリー留学記

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「なんでフランスなの?」「フランス語できたところで、え?みたいな感じだよ」。2年間のフランス留学を切り出した日、返ってきたのはそんな言葉でした。

慶應義塾大学の理工学部から、フランスのグランゼコール(エリート養成学校)に「ダブルディグリー」で留学したい。2年間で日仏両方の修士号が取れるプログラムがある。そう伝えても、親の反応は「うーん」だったそうです。泣いた夜もあった。それでも、フランス語検定を5回受け、短期留学を2回経験し、留学の意義をプレゼンして説得した。

今回お話を聞いたのは、慶應義塾大学 理工学部からÉcole centrale de Lyon(エコール・サントラル・ド・リヨン)にダブルディグリーで留学中の、中井千愛さんです。(2026年2月取材)

INTERVIEW GUEST 千愛さんの写真

「ディズニーランドに釣られてフランスに行ったのが、全部の始まりでした」

中井千愛さん

  • 留学先: École centrale de Lyon(フランス・リヨン)
  • 日本の大学: 慶應義塾大学 理工学部(情報工学専攻)
  • 留学形態: ダブルディグリー(2年間)
  • 生活費: 月約10〜11万円(住宅補助後)
  • フランス語: 仏検2級 / DELF B2

千愛さんには、フランスとの出会いからダブルディグリーを目指すまでの経緯、語学の積み上げ方、親との交渉、グランゼコールの日常と授業の厳しさ、友人関係で壁にぶつかった時期、そして寮の暮らしや生活費の内訳まで、順を追って話してもらいました。

ダブルディグリーやグランゼコールという制度、フランス語で理系を学ぶとはどういうことか、月にいくらかかっているのか。留学から半年が過ぎた今の率直な気持ちを含めて、詳しく聞いてきました。

フランスのÉcole centrale de Lyonに交換留学している千愛さん
CONTENTS

フランスに一目惚れした日

帰国子女に囲まれて芽生えた「海外」への憧れ

千愛さんが海外に興味を持ったのは、幼稚園で英語を習い始めた頃まで遡ります。「海外ってかっこいい、キラキラしている」という漠然とした憧れが、そこからずっと続いていたそうです。

その憧れが具体的な行動に変わった最初のきっかけは、中学受験でした。

千愛さん

中学受験をしたのは、受験することで中高時代にも留学ができる可能性が広がるって親から聞いたからなんです。私立の高校だったらいろんなプログラムがあったりするって。

進学した中高一貫校は、クラスの3分の1が帰国子女。英語の授業は2つに分かれていて、帰国子女のネイティブクラスと一般生のクラスがそれぞれ別の教室で行われる環境でした。英語が飛び交う日常に刺激を受けつつ、「やばいな」という焦りも感じていたそうです。

ただ、留学したいという思いはあっても、実際に踏み出す勇気がなかなか出なかったと千愛さんは振り返ります。中学3年生の時に留学プログラムがあったものの、応募すらできなかったとのこと。高校1年の時にはコロナで留学の機会自体がなくなり、結局中高6年間では一度も海外に出ることがなかったそうです。

初めてやることだし、みんながやっていることじゃないし。どういう日常になるんだろうっていう疑問に怖さがあって、結局勇気を振り絞れなかったんです。

「ディズニーランドがあるなら行ってもいい」

当時の千愛さんにとって、「海外」はアメリカのことでした。英語のキラキラした世界への憧れ。ヨーロッパには全く興味がなかったそうです。

転機になったのは、中学2〜3年生の時の家族旅行。行き先はフランスでした。といっても千愛さんは乗り気ではなく、「フランスつまらなそう」と思っていたとか。最終的に「パリにディズニーランドがあるよ」と両親に言われ、それならいいか、と渋々ついていったそうです。

行ってみたらすごく感動しちゃって。今まで見たことない世界で、建物全部に貫禄があるというか、中世のヨーロッパみたいな空気感が全然違って。フランスに一目惚れしました。

帰国後すぐに語学学習アプリのDuolingoでフランス語を始め、簡単な参考書も買って独学をスタート。ディズニーランドに釣られて訪れたフランスが、その後の人生を大きく変えることになりました。

ダブルディグリーとの出会い — 2年間なら、語学で終わらない

高2の説明会で見つけた「絶対に行く」道

千愛さんが「ダブルディグリー」という制度を初めて知ったのは、高校2年生の時でした。中高大一貫の学校だったため、大学の学部説明会が各学部で開かれていて、理工学部の説明会に参加した時のことだそうです。

2つの学位も取れるし、フランスで2年間も勉強できるって聞いて。1年間の留学だと語学がメインになるイメージがあったんですけど、私は語学を学ぶだけで終わらず、学業も海外でやりたかった。日本で学ぶ以上のことを学びたいなって。

ダブルディグリーとは、日本の大学に在籍しながら海外の大学にも通い、両方の学位を取得できる制度です。千愛さんの場合は、フランスで2年間学んだ後に日本の大学院に戻り、修了時に日仏両方の修士号が得られる仕組みになっています。

1年の留学では語学がメインになってしまう。2年あれば学業そのものを海外で学べる。この違いが千愛さんにとっての決め手で、高校2年生の時点で「絶対にこのプログラムに行く」と心を決めたそうです。

フランス語検定5回、段階的に積み上げた語学力

ダブルディグリーに向けて、千愛さんはフランス語を段階的に積み上げていきました。高校3年から仏検(フランス語検定)を受け始め、毎回レベルを上げながら計5回受験しています。

試験レベル時期結果
仏検4級高3合格
仏検3級大1頃合格
仏検準2級大1〜2年頃合格
仏検2級大2頃合格
仏検準1級大2秋不合格
TCFB1大2秋取得
DELFB2留学決定後取得
英検準1級高2(3回目で合格)合格

仏検は4級から2級まで一発合格。準1級で初めて不合格となり、2級で止まっています。それとは別に、フランス政府公認の試験であるTCF(B1レベル、英検2級相当)とDELF(B2レベル、英検準1級相当)も取得。DELFのB2は、フランス人に対して自分の語学力を証明するために取ったそうです。

試験を受けるってなると目標ができるじゃないですか。ただ勉強してると目標が立てにくい。だから試験を受けるようにして、何月にこれに受かるっていうのを計画的にやってきたことで、だんだん習得してきたって感じです。

フランス語の学習法は独特でした。フランスのニュース番組のポッドキャストを、意味が分からなくても毎日電車で聞いて耳を慣らす。新聞記事をノートに丸写しして、分からない単語に線を引き、その単語が入っているセンテンスごと暗記する。意味だけでなく使い方も一緒に覚えることで、実際に使えるようになったといいます。

最近ではChatGPTの音声機能も活用しているそうです。暇な時にフランス語で話しかけ、その日あったことを話すという練習方法。スピーキングの相手がいない環境でも、AIが会話相手になってくれるのは大きいと話していました。

英語については高校2年で英検準1級を取得(3回目の挑戦で合格)。TOEIC・TOEFLは未受験のままです。高校1年のコロナ禍にレアジョブ英会話で毎日30分のオンライン英会話を約半年続け、それがスピーキング力向上につながったとのこと。ディズニーチャンネルを英語で見るなど、日常に英語を取り込む工夫もしていたそうです。

「なんでフランスなの?」— 親との交渉

泣いた夜と、自分でもうまく説明できなかった理由

短期の語学留学には「人生経験としていいと思う」と賛成してくれた両親も、2年間のダブルディグリーには簡単にOKを出してくれなかったそうです。

「なんでフランスなの?」「フランス語できたところで、え?みたいな感じだよ」って言われて。泣いた時もありました。なぜ私がやりたいことに賛同してくれないんだろうって。

絶対に反対というわけではなかったものの、「うーん」という反応。賛成ではない空気が両親の間にあったそうです。千愛さん自身も、当時はなぜ行きたいのかを言葉でうまく説明できなかったと振り返ります。「フランスが好きだし興味がある」だけでは理由にならない。留学に行って何が得られるのかを聞かれた時、答えに詰まってしまったとのことでした。

さらに、千愛さんがフランスで全分野をジェネラリストとして学ぶことで将来の選択肢が広がると話すと、親からはこう返されたそうです。

「やることを探しに留学に行くのは危険だ」って。留学はやることが決まってて、これをやりたいから行くっていうんじゃないと危険だからって。確かにな、と思いました。

短期留学2回を経て、親にプレゼンした日

大学1年と2年でそれぞれ1回ずつ、フランスに語学留学に行っています。どちらも短期間で、ダブルディグリーへの助走として位置づけていたそうです。

2回の語学留学を経て「自分の将来がクリアに見えてきた」という千愛さんは、改めて留学の意義を整理し、親にプレゼンしました。フランスのグランゼコールではジェネラリスト教育で全分野を学べること、それによって将来の選択肢が広がること、具体的にどの分野で何をしたいのか。漠然とした憧れではなく、明確なビジョンを示したことで、最終的に了承を得られたそうです。

金銭面では、学費は日本の大学に通常通り納付する形で、フランスの学校への学費は不要。さらにダブルディグリー向けの奨学金も獲得できたことで、実質的に学費免除になったことも大きかったといいます。ただし生活費や渡航費は円安もあって決して安くはなく、かなり議論を重ねたとのことでした。

出願からリヨンへ — グランゼコールという選択

書類・面接・エッセイ — DD選考の中身

千愛さんが出願したのは大学2年の2月。結果が出たのは3月末から4月頭で、出発の約5ヶ月前というタイミングでした。

選考のプロセスは以下の通りです。

ステップ時期内容
出願大2の2月書類提出(1-2年の成績+エッセイ)
1次面接2〜3週間後日本人教授との面接
2次面接さらに2〜3週間後フランス人教授とZoom面接
結果通知3月末〜4月頭合否決定
語学学校大3の6〜7月2ヶ月間(学校からの義務)
本課程開始大3の9月グランゼコールでの授業開始

まず1〜2年生の成績が審査され、フランス語の試験も行われます。ただ、どのレベルのフランス語力が求められるかは明示されていなかったそうです。

結構シークレットな感じで、何も言われていなくて。でも友達で本当にフランス語を喋らない子も受かったので、英語ができれば最低限OKみたいな感じだったと思います。

渡航前には2〜3ヶ月の語学学校に通うことが義務づけられていて、フランス語のレベルはそこで引き上げる前提だったようです。

エッセイは日本語と英語の両方で、約1,000文字。千愛さんは差別化を強く意識したそうです。「海外で働きたい」「フランス語を使いたい」ではパンチがない。自分の専攻である情報工学を活かし、データサイエンスやAIを使ってどの分野に貢献したいかを具体的に書いたとのこと。親に内容を2〜3回見てもらって仕上げたといいます。

同期は全部で10人。5つのキャンパスに2〜3人ずつ散らばる形で留学しています。

パリではなくリヨンを選んだ理由

千愛さんが通っているのは、フランスの「グランゼコール」と呼ばれる教育機関です。日本の大学とは異なる仕組みで、高校卒業後に「プレパ」と呼ばれる2年間の準備課程を経て入学試験を受けるエリート養成学校。国から認定を受けた機関で、理系だけでなく法学や経済学の分野にも存在します。千愛さんの大学の文系学部にも、パリの経済系グランゼコールへのダブルディグリープログラムがあるそうです。

グランゼコールの特徴のひとつに、3年目に全員が海外に留学する制度があります。フランス人学生もヨーロッパ各国の大学に散っていく。千愛さんのダブルディグリーは、その逆方向(日本から受け入れる形)のプログラムです。

千愛さんの学校には5つのキャンパスがあり、それぞれ強みが異なります。形式上は他のダブルディグリープログラム(別の学校への派遣)も存在するものの、毎年応募者が0人で実質的には選択肢がなかったそうです。5つのキャンパスの中からどこに行くかを自分で選ぶ形でした。

フランスのÉcole centrale de Lyonのキャンパスを歩く学生たち

最上位はパリのキャンパスですが、難易度が非常に高く、受かるかどうかも分からないレベルだったとのこと。千愛さんの代ではパリを志望した人はおらず、自分のレベルに合った学校の中から第一志望を決めたそうです。最終的にリヨンとナントの2択になり、リヨンを選択。

リヨンは航空力学、流体力学が勉強できるし、校舎の中のランキングでも結構上の方だったので。あと学業じゃない面で言うと、いろんな国にすぐ行けるんですよ。イタリアとかも電車で行けるし。旅行がめっちゃ大好きなんで、プライベートの充実度も考えて選びました。

パリを除いたグランゼコールの中ではランキングが最上位に位置しているというリヨン校。学業面と生活面の両方を見て選んだ結果でした。

なお、ダブルディグリーの制度自体は千愛さんの大学以外にもあり、東京大学、同志社大学、東北大学などでは大学院レベルのプログラムが存在するとのことでした。

ビザ・保険・手続き — Campus Franceが頼りになった

渡航にあたって必要だった手続きは、ビザ申請、健康保険の加入、住宅補助(CAF)の申請の3つが中心です。CAFはフランスの公的な住宅補助制度で、有効なビザや滞在許可証があれば留学生でも申請できます。

大学からの情報は限定的で、ビザに関しては「ちょっとだけ情報があった」程度。千愛さんが最も頼りにしたのは、Campus France(キャンパスフランス)というフランス政府の教育専門の公的機関のサイトでした。ビザの申請方法から健康保険の手続きまで、動画付きで全てまとめられていたそうです。

もうひとつの重要な情報源が、先輩たちの月次報告書。千愛さんの大学では留学中の学生がセメスター(学期)ごとに報告書を提出する仕組みがあり、勉強内容から生活費の内訳、日常生活まで書かれています。千愛さん自身も今は提出する側で、行政手続きについてもまとめているとのこと。

ただし行政手続きは毎年変わることがあるため、先輩の報告書をそのまま鵜呑みにせず、自分で最新情報を取りに行く方が確実だと話していました。

語学学校とホストファミリーの2ヶ月

9月の本課程が始まる前に、2ヶ月間の語学学校に通うことが義務づけられています。千愛さんはこの期間、ホストファミリーのもとで暮らすことを選びました。

やっぱり一番フランス語を勉強できるのって日常生活で。ご飯も一緒に食べるし、そこで会話もするし。ストレスはあるかもしれないけど、フランス語は本当に伸びると思って。

語学学校が提携しているホストファミリーの中から、学校側がマッチングしてくれる仕組み。千愛さんのホストマザーはおばあちゃんで、ゆっくり話してくれたそうです。朝食と夕食がつき、費用は1日あたり約8,000円(日本円換算)。決して安くはない金額ですが、先輩からのおすすめもあり、語学の伸びを優先した選択でした。

実際、ホストファミリーとの2ヶ月間でフランス語は大きく伸びたとのこと。この期間がなければ、9月からの全フランス語の授業にはとてもついていけなかっただろうと話していました。

フランスのÉcole centrale de Lyonの教室内

グランゼコールの日常 — 朝8時から夜6時まで

授業はすべてフランス語。iPadで翻訳しながら

千愛さんの1日は朝8時に始まり、夜6時まで続きます。唯一の休みは木曜日の午後だけ。1セメスターで7科目に加え、体育(必修)とグループの研究プロジェクトが走っている状態です。

日本の大学って空きコマとかあるじゃないですか。こんなにずっと授業があるのかってびっくりしました。

授業は3つの形態に分かれています。大教室で行う大講義、30〜40人の少人数クラスで問題演習を行うTD(演習)、そして実験。大講義とTDはセットで組まれていて、講義で学んだ内容をTDで実際に問題を解きながら定着させる形です。

日本の大学との大きな違いは、グループワークとプレゼンテーションの量。ほぼ毎週あり、高校のような雰囲気で、授業内でグループワークの時間が設けられています。フランスではオンとオフの切り替えがはっきりしていて、授業中は集中するけれど授業外の課題はほとんどないそうです。プレゼンの準備もTDの授業内で完結させるのが基本とのこと。

体育ではバドミントン、パデル(テニスに似たラケットスポーツ)、卓球、テニスの4種目を回すコースを選択。ガチ勢は大学間の大会に出場するような環境ですが、千愛さんは「そんな余裕はないので、めっちゃゆるいやつを取りました」とのこと。

フランスのÉcole centrale de Lyonに交換留学している千愛さんの授業スケジュール(Googleカレンダー)

授業はすべてフランス語。千愛さんはiPadでスライドを横に表示し、翻訳をかけながら受講しています。先生の説明は聞き取れるものの、同年代のフランス人学生同士の会話はまったく別物だそうです。

早口だし、知らないスラングがすごく出てくるし、メッセージも略文字だらけで、何?みたいな。最初の1ヶ月は本当に何言ってるか分からなかった。

周りはプレパ(2年間の準備課程)で鍛えられてきた学生たち。レベルが非常に高い中で、予習と復習を欠かさずやることで食らいついているそうです。

「いない存在」として扱われた最初の3ヶ月

留学生活で最も辛かったことを聞くと、千愛さんは迷わず「友達ができなかったこと」と答えました。同じキャンパスにいる日本人はもう1人だけ。辛いことがあっても吐き出せる相手が身近にいないという状況が、最初の3ヶ月ほど続いたそうです。

留学生に全く興味がない子とか、いない存在として扱われたり。グループワークがあった時に、留学生はどうせフランス語を喋れないしって感じで、放置されるんです。

先生との1対1や、友達と2人で話す場面では問題ないとのこと。先生は丁寧に聞いてくれるし、1対1なら友達もゆっくり話してくれる。しかし大人数対1人の状況になると、全員がネイティブスピードで議論を進める中に入っていくのが難しかったそうです。親に電話して泣いた日もあったといいます。

それでも千愛さんは少しずつ自分なりの居場所を見つけていきました。

自分を大切にしてくれる人とだけいればいい。自分がフランス人に合わせる必要もないっていう結論に至って。気にしすぎちゃってたんだなって気づきました。

留学生の友達、日本語を勉強しているフランス人のクラス、国際系の活動をする生徒会、オーケストラの同好会。自分に興味を持ってくれる人との関係を大切にするようになってから、気持ちが楽になったそうです。千愛さんは日本の大学でもヴィオラを弾いていて、リヨンでは楽器屋で月20ユーロでヴィオラを借りて、オーケストラの同好会で演奏を続けています。

辛い時は、親や日本の友人に電話して気持ちを吐き出すことが支えだったとのこと。「自分の気持ちを自分の中に溜めるんじゃなくて、吐き出すことが一番」と話していました。

試験期間 — 唯一「帰りたい」と思った瞬間

友人関係の辛さは3ヶ月ほどで落ち着いたものの、唯一「帰りたい」と思った瞬間があったそうです。それはテスト期間でした。

テストもフランス語で書かれてて、何聞かれてるのか分かんないみたいな。それがとにかく辛くて。途中点狙いに行こうって感じで、予測で書きました。

この期末試験が2年間で合計4回ある。あと3回これをやるのかと思った瞬間に、初めて「帰りたい」という気持ちが湧いたそうです。

一方で、口頭試験は意外と乗り越えられたそうです。先生と1対1で20分間、自分がパソコン上でシミュレーションした内容について「なぜこうなのか」「どうしてこうしたのか」をフランス語で説明する試験。フランス語で20分間話し続けるのは不安だったものの、先生がしっかり聞いてくれたことで「意外と大丈夫だった」とのことでした。

リヨンでの暮らし — 月約710ユーロの生活費

寮、自炊、洗濯 — 生活費の内訳

千愛さんの月の生活費は約710ユーロ(住宅補助適用後は約610ユーロ)です。内訳は以下の通り。

項目金額(ユーロ)備考
住居費(寮)399(補助後299)住宅補助(CAF)月100ユーロ
食費約190ほぼ自炊。外食は月1〜2回
日用品約60
通信費20Free社、250GB
洗濯代約151回4.5ユーロ、週1回
楽器レンタル20ヴィオラ
交通費20以下バス・メトロ。平日はキャンパス内
合計約710(補助後610)日本円で約10〜11万円

※1ユーロ=約160〜185円で推移(2025年9月〜2026年2月)

住まいは学校の寮で、キャンパスから徒歩5分。18m²の部屋にベッド、机、シャワー、トイレがついています。寮には2つのタイプがあり、キッチン付きの個室タイプ(600〜700ユーロ/月)と、キッチンを共有するタイプ。千愛さんは安い方の共有キッチン型を選びました。

ただし共有キッチンには悩みがあったようです。

16人で1つのキッチンをシェアしてて、衛生面もあれだから。最近は電気のお鍋みたいなのを買って、自分の部屋で料理できるようにして解決しました。

寮は男女混合。千愛さんはたまたま両隣が女性で静かだったものの、隣の隣の部屋からは常に音楽が流れていたとか。シャワーは「小学校の机1個分くらいの広さしかない」とのことで、毎日のストレスだと笑いながら話していました。

食費は月190ユーロ程度。学食は3.3ユーロでメイン・前菜・デザートのセットが食べられますが、自炊ならパスタなどで1ユーロもかからないため、最近はほぼ毎食自炊しているそうです。野菜やパン、お菓子はフランスの大型スーパーではかなり安いとのこと。昼休みは2時間あるので、寮に帰って自炊し、昼食をとってから午後の授業に戻る生活です。

フランスのÉcole centrale de Lyonの食堂

意外と高いと感じたのが洗濯代だったそうです。

洗濯が1回4.5ユーロかかるんですけど、普通に計算したら800円くらい。すごい高いなって。

週1回でも月に15ユーロほど。日本では考えもしなかった出費です。

奨学金・銀行口座・送金 — お金まわりの仕組み

学費について。千愛さんのダブルディグリーでは、フランスの学校に学費を払う必要はなく、日本の大学に通常通り納付する仕組みです。さらに、DD向けの奨学金として学費と同額が振り込まれるため、実質的に学費が免除されている状態。語学学校の期間中はJASSO(日本学生支援機構)からの支援もあったそうです。

奨学金の選考はダブルディグリーの面接と兼ねて行われ、10人の中から誰に奨学金を割り当てるかを見ていたようです。千愛さん自身も「何を見られているのかは正直分からない」と話していましたが、成績とエッセイが判断材料のひとつだったとのこと。

銀行口座はフランス到着後すぐにBNP(フランス最大手の銀行)で開設しています。必要書類は、戸籍謄本の日本語版とフランス語翻訳版、パスポート、住居証明、ビザ。

銀行口座がないと健康保険に入れないっていうので、もう着いてすぐに開設しました。後々もいろんな面で必要になってくるし、小切手を得るにも銀行口座が必要だから、やっぱ口座開設は必須ですね。

フランスでは小切手が今も使われていて、楽器のレンタル時にも担保として小切手を渡す必要があったとのこと。書類を揃えるのも大変だったそうですが、到着後の最優先事項として片付けるべき手続きです。

日本からの送金は、国際送金サービスのWise(ワイズ)を利用。親が半年分として約50万円を一括で送金し、千愛さんが自分でWiseからフランスのBNP口座に移しています。ただし、日常の決済は親名義の家族カードを使っているため、Wiseから送った50万円はまだ半分も使っていないそうです。銀行口座は主に寮費の振り込みに使用しているとのこと。

通信は、フランスの格安キャリアFree社のSIMを使用。250GBで月20ユーロと破格ですが、通信品質はあまり良くないそうです。学校のWi-Fi(eduroam)も弱く、スマホのテザリングに頼ることが多いとのこと。学校のLMS(Google Classroomのようなシステム)がサイバー攻撃で1日丸ごと使えなくなったこともあったそうです。

保険は大学から指定されたものに加入。2年間で約26万円。千愛さん自身はまだ使ったことがないものの、ホストファミリーの家のドアを壊してしまった友人が保険で対応したケースもあるとのことでした。

フランスで暮らして気づいたこと

日曜も月曜もスーパーが閉まる国

フランスの生活で戸惑ったことのひとつが、お店の営業時間。スーパーは夜8時頃に閉まり、日曜日は休業。月曜日も休みのところがあり、ショッピングモールを含めて街全体がお休みモードになるそうです。千愛さんは週に1回まとめ買いをして対応しています。

衛生面では、食事の際にバゲットをお皿ではなくテーブルに直接置く文化や、食器用のスポンジでそのままテーブルを拭く習慣に最初は驚いたとのこと。「日本人ってきれい好きなんだなと気づかされた」と話していました。

フランス人のコミュニケーションスタイルにも慣れるまで時間がかかったそうです。

とにかく自分の意見をすごく言うんです。1人がまだ話しているのに、もう1人がそこからうわーっていく。日本だったら一回聞いてからだと思うんですけど。

表現もストレートで、嫌なことは嫌とはっきり伝える。千愛さんは最初、それを真正面から受け止めてしまい、「何か悪いことしちゃったかな」と毎回落ち込んでいたそうです。それが悪意ではなく「ただ自分の意見を言っているだけ」だと気づいてからは、受け止め方が変わったといいます。

パーティー文化にも驚いたとのこと。校内にパーティー会場があり、朝5時まで続くこともある。しかもその3時間後には授業。千愛さんは会場の匂いがどうしても合わず、あまり参加していないそうです。

治安と安全 — リヨンは比較的安全

治安については、リヨンは基本的に安全だと感じているそうです。近隣で銃撃事件が1回あったものの、学校周辺で日常的に危険を感じることはないとのこと。

千愛さんは夜10時以降は1人で外出しないようにしています。早朝や深夜の公共交通機関には薬物の影響を受けた人が乗っていることがあり、語学留学中に早朝のトラムで見知らぬ人に絡まれた経験も。反応せずにやり過ごしたそうです。

アジア人に対する差別については、街中で1度だけ差別的な言葉を叫ばれたことがあったといいます。ただし学校内では差別を感じたことは一度もなく、リヨンは留学生率がフランス国内でも高い都市で、多文化への理解がある環境だと話していました。

フランスのÉcole centrale de Lyonに交換留学している千愛さん

半年が過ぎて — 後悔は、全くしていない

留学開始から半年。千愛さんに「来てよかったですか」と聞くと、迷いのない答えが返ってきました。

全く後悔していなくて。帰りたいって思ったことはあったけど、もうすでに学んだことはすごくたくさんあるし、日本人としてこうありたいっていうのも見えてきました。

フランスで暮らしたことで、逆に日本人の良さが見えてきたそうです。努力する精神、きちんとすること。並外れた才能がなくても努力で積み上げていく姿勢は、日本人として大切にしていきたいと感じたとのこと。

帰国後は日本の大学院に戻り、2つの修士号を取得する予定です。もともと航空系に興味があり、フランスで学んでいる流体力学もその延長線上。英語かフランス語を使って、国際的なチームで働きたいと考えているそうです。

留学を迷っている人に向けて、かつて自分も踏み出せなかった千愛さんはこう話していました。

悩んでも悩んでも、結局最終的に出る決断は自分がやりたいことだと思うし、本当にやりたかったらもう行ってると思います。目的は明確にした方がいいけど、悩みすぎない、抱え込みすぎないでほしい。大変なこともあるけれど、行って損することは本当にないと思います。

「なんでフランスなの?」親のその問いに、当時の千愛さんはうまく答えられなかった。でも仏検を5回受け、短期留学を2回重ね、親にプレゼンし、今はフランス語で流体力学を学んでいる。答えは言葉ではなく、行動の中にありました。

免責事項

本記事の内容はインタビュー時点の情報に基づいており、費用・制度・条件は時期や個人の状況により異なります。ビザ制度や奨学金制度等は変更される可能性があるため、最新情報は各機関の公式サイトでご確認ください。本記事の内容に基づく判断や行動の結果について、当メディアおよび執筆者は責任を負いかねます。

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