マレーシアで2年間学んでからアメリカの大学に編入できる。サンウェイ大学のADTP(American Degree Transfer Program)は、そういうプログラムです。しかも、編入できなかった場合でもマレーシアにいながらアリゾナ州立大学の学位が取れる「保険」がついていました。
もともとはアメリカに直接行くつもりでした。コミュニティカレッジのオファーレターも取得済み。ただ、生活費まで含めて計算すると家計には厳しく、父親が見つけてきたのがこのマレーシア経由のルートだったそうです。
今回お話を聞いたのは、アメリカではなくマレーシアから始めることを選んだあらたさんです。(2026年1月取材)
あらたさんに、アメリカを断念した経緯、サンウェイ大学を選んだ理由、TOEFL対策、月8万円の暮らし、ファウンデーションコースの厳しさ、そして親の説得方法まで聞きました。

スタンフォードを見て、推薦を取り消した
受験期真っ只中、1週間前にパスポートを取ってアメリカへ
あらたさんが留学を意識し始めたのは、高校3年の夏でした。きっかけは、知り合いに誘われたアメリカ旅行です。
その人はもともとアメリカに住んでいた起業家で、仕事の関係で渡米することになり「もしよかったらついてくるか」と声をかけてくれたそうです。誘われたのは出発の直前。受験期の真っ只中でしたが、1週間前にパスポートを取って渡米を決めました。
結構急に言われて、1週間前とかにパスポートを取ったんですけど、行ってみる価値はあるかなと思いました。もしかしたらアメリカに一生に一回行けるか分からないし、もともとアメリカが好きだったというのもあります。自分の英語の実力も英語圏で試してみたいなと思いました。
費用は基本的に自分で出したそうです。航空券は自腹、宿泊は知り合いの知り合いの家に泊めてもらう形で無料に。一部は親からも援助を受けながらの旅行でした。
それまで留学は考えたこともなく、東京の大学に進学するつもりで推薦入試の準備を進めていた時期です。
「留学した方が人生の価値が上がる」
アメリカではUCバークレーとスタンフォード大学の2校を見学しました。最初は旅行感覚だったものの、キャンパスを歩くうちに想像していた大学生活とのギャップを感じたそうです。
キャンパスの雰囲気だったり、生徒の過ごし方を見て、自分が思っていた日本の大学生の生活イメージとのギャップがありました。アメリカの学生の方が、ちゃんと勉強もしつつという両立ができているなとも思いました。
スタンフォードを訪れた時に、留学という選択肢が急に浮かんできたようで、将来の夢はまだ確定していなかったものの、「留学した将来の自分」と「日本の大学に行った将来の自分」を比較するようになりました。
将来的にどっちの方が人生楽しそうかと考えたら、絶対留学した方が経験値が積み上がるから、人生の価値が上がるという風に感じて、留学しようと決めました。
帰りの飛行機の中でも考え続け、帰国後すぐに伝えた
帰国後すぐに行動を起こしました。日本に帰る飛行機の中でも考え続け、着いてすぐに両親と先生に「推薦を取り消して、アメリカの大学に行きたい」と伝えたそうです。
推薦入試のわずか1週間前。
両親の反応は反対でした。費用がかかること、時期が急すぎること、そしてあらたさん自身が将来のビジョンをまだ固められていなかったこと。反対の理由はいくつも重なっていたようです。
その状態でいっぱいお金を出すというのはできないから、最低限どういうふうにアメリカで過ごして、将来どういうふうに働いていくかというビジョンはしっかり立ててくれ、それで判断すると言われました。
「留学したい」という気持ちだけでは足りない。将来の道筋を示してほしい、と。この時点ではまだアメリカを想定していました。
両親をどうやって説得したか
起業家の知り合いと一緒に内容を練った
あらたさんには、アメリカ旅行に誘ってくれた起業家の知り合いがいました。帰国後もこの人に相談していたそうです。
その人たちとも親に説得する前にどうしたらいいか相談していました。その人が起業家なんで、一緒にいろいろ練りながら、アドバイスやサポートしてもらいながら話したので、あんまり緊張はなかったかなと思います。
一人で説得しようとしたわけではなく、起業家の知り合いと内容を練ってから、両親に話した。この準備があったから緊張せずに伝えられたと振り返っています。
実際に伝えたのは「起業したい」という将来像でした。
もともと日本の大学に行くときは、ある程度収入がもらえる会社で安定していければいいなというのはあったんですけど、アメリカは起業家精神が強い国だし、留学して日本の学生と違う経験を積んだからには、自分で何かしら事業を起こしてみたい。日本人があまりしないようなことを海外に出たからにはやって成功させたいという風に言った気がします。
日本の大学に行くなら安定した会社に就職すればいい。でも、留学するなら日本人があまりしないことをやりたい。書面ではなく口頭で伝えたとのことでした。
両親はこの説明を聞いて、最終的に留学を許可してくれたそうです。
今も「投資のリターン」を意識しながら生活している
許可が出た後も、あらたさんの意識は変わっていません。
親からの投資に近い感覚で留学に来ているので、その分のリターンができるかなというのは、今も心配しながら生活しています。
マレーシアでは学生ビザでアルバイトができません。収入を得る手段が限られる中、どうやって親に負担をかけないかを日々考えているようでした。
バイトできない環境で、どうやって他に稼ごうかという稼ぎ方もいろいろ模索しつつあるので、できるだけ親に負担をかけないように考えています。
現在は留学エージェントのアンバサダーとして活動を始めていて、紹介経由で契約が成立すれば報酬が得られる仕組みを作っているそうです。まだ収入は得ていないものの、「得られる状態にはなっている」とのことでした。
アメリカを断念し、マレーシアにたどり着くまで
コミカレ経由でも「やっぱり厳しい」
両親を説得した後、あらたさんはまずアメリカを目指しました。TOEFLを受験して60点を取得し、アメリカのコミュニティカレッジ(2年制大学)からオファーレターも受け取っています。
コミュニティカレッジを経由して4年制大学に編入するルートなら学費を抑えられる。そう考えて両親にも説明し、「ギリギリ行けそう」という話になっていたそうです。
「コミュニティカレッジを経由して編入するルートだと安いよ」と両親に言っていて、両親もじゃあギリギリ行けそうなんじゃないかとなっていた。もともと最初からちょっと費用面は心配しつつ、TOEFLも受験していました。
しかし、細かく計算し直すと状況が変わりました。
だんだん物価が上がってきている時期だったんで、生活費とかも含めてよくよく細かいところまで計算してみたら、ウチの家庭の経済状況的にダイレクトで行くのは厳しいんじゃないかという話になりました。
学費だけなら何とかなりそうでも、生活費を含めると足りない。あらたさんは自分の家庭を「日本の中で言ったらどちらかと言うと一般的な家庭の方に近い」と表現しています。
テキサス州のコミュニティカレッジも検討していました。物価も税金も安い州で、サンフランシスコよりかなり安く暮らせる場所。後に契約することになる留学エージェントのYouTubeでテキサス留学が安いという情報を見つけ、カウンセリングも受けたそうです。
しかし、テキサスでも2年間のアメリカ生活費を考えると、やはり厳しかった。コミュニティカレッジのオファーレターは取り消すことになりました。
父が見つけた「マレーシア経由」のルート
アメリカ行きを断念した数日後、父親から提案がありました。マレーシアの大学からアメリカに編入できるルートがあるらしい、と。
父がマレーシアからアメリカに編入できるコースがある大学があるらしいよということを見つけてくれて、そこでマレーシアを調べているうちに、サンウェイ大学がADTPというアメリカ編入プログラムがあるということを知りました。
ADTP(American Degree Transfer Program)は、マレーシアで2年間学んだ後にアメリカの大学に編入できるプログラムです。マレーシアについて調べ始めると、物価の安さや教育レベルの高さがわかってきて、「コスパがいい」と感じたそうです。


サンウェイを選んだ2つの理由
マレーシアの大学を検討する中で、テイラーズ大学も候補に挙がっていました。最終的にサンウェイ大学を選んだ理由は、コストと「保険」の2つでした。
テイラーズはサンウェイよりコストが年間で30〜40万くらい高い。
あとはサンウェイがアリゾナ州立大学と提携していて、仮に奨学金が取れなくて編入できなかった場合でも、マレーシアにいながらアリゾナの学位を取ることが可能です。テイラーズはそれがないみたいで、コスパと保険を考えてサンウェイにしました。
年間30〜40万円の差は、4年間で120〜160万円になります。
| 比較項目 | サンウェイ大学 | テイラーズ大学 |
|---|---|---|
| 年間コスト | 基準 | 年間30〜40万円高い |
| 4年間の差額 | — | 120〜160万円 |
| アメリカ編入プログラム | ADTP あり | あり(※別プログラム) |
| 編入できなかった場合 | アリゾナ州立大学の学位をマレーシアで取得可能 | この仕組みなし |
※金額はあらたさんの記憶ベースです。最新の学費は各大学の公式サイトをご確認ください。
コスト以上にあらたさんの判断を決めたのが「保険」の存在でした。アメリカ編入には奨学金の取得やGPAの維持など、いくつかのハードルがあります。それらをクリアできなかった場合でも、マレーシアにいながらアメリカの大学の学位を取れる。テイラーズにはこの仕組みがなかったそうです。
TOEFL 43点から60点まで
「元々英語が苦手だった」
あらたさんは「元々英語が苦手だった」と話しています。TOEFLの1回目は43点。高校3年の9月か10月頃に受験しました。
そこから約4ヶ月後の1月に2回目を受験し、60点を取得。60点はコミュニティカレッジの入学ボーダーぴったりで、ギリギリの結果だったそうです。
勉強時間は1日8時間以上を目標にしていたとのこと。
最初は本当にひたすら単語を詰め込みまくって、共通テストも最低8割以上、リスニングとリーディングどっちも絶対取れるようにしようという感じでした。その基準点が取れるようにしてからTOEFLを受験した。
使っていた教材はTOEFL専用の単語帳、総合対策本、過去問の3点セット。単語帳にはイラストを書いたり、複合語にスラッシュを入れて構成要素がわかるようにしたり、独自の工夫を重ねていました。
「2秒以内に翻訳できないものは覚えていないとみなす」というルールを設け、ひたすら反復していたとのこと。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| TOEFL 1回目 | 43点(高3の9〜10月) |
| TOEFL 2回目 | 60点(高3の1月) |
| 勉強時間 | 1日8時間以上が目標 |
| 教材 | TOEFL単語帳 + 総合対策本 + 過去問 |
| 工夫 | イラスト付き単語帳、「2秒以内翻訳」ルール |
リーディングとリスニングの対策は、YouTubeで勉強法を調べながら進めていました。TOEFLは共通テストとは傾向が全く違うため、いろいろな動画を見て自分に合う方法を模索していたそうです。特定のチャンネルに絞っていたわけではなく、幅広く参考にしていたとのことでした。
高校の成績も維持しながら
留学を決めてからも、高校の成績を落とすわけにはいきませんでした。出願時に高校のGPA(成績評価の指標)が求められ、それが奨学金にも影響するためです。
共通テストは受けなかったものの、「他の教科もできるだけ平均点以上は絶対取れるように」勉強を続けていたそうです。放課後は英語に集中し、他の教科もぎりぎり維持する。4ヶ月間、そのバランスを保ち続けたことになります。
出願から渡航まで1ヶ月
IELTSを受け直さずにサンウェイに入学できた
サンウェイ大学は通常IELTS(英語能力試験)のスコアで入学を判定しますが、あらたさんが持っていたのはTOEFLのスコアだけでした。
もうTOEFLを受けていたので、これ以上英語の試験はあまり受けたくないなというのがあって、お金もかかるし。大学といろいろ交渉して特別枠で入れてもらいました。
交渉を代行してくれたのは、留学エージェント「グローバルステップ(GLOBAL STEP)」です。結果として「ファウンデーションコースからなら特別枠として入学していい」という形で合格を得たそうです。
本当はユニバーシティ(学部)から直接入学できれば費用を抑えられると考えていたとのこと。ただ、あらたさんはファウンデーション経由を前向きに捉えています。
結局アメリカに編入するってなったらユニバーシティのGPAが大事なので、高いGPAを取ることを考えたら、ファウンデーションを経由した方が確実に取れるなと思った。
ファウンデーションコースで大学の授業に慣れてから学部に進めば、より高いGPAを取りやすくなる。この考え方で受け入れた判断でした。
出願に必要だったのは、TOEFLのスコアと高校の成績をGPA換算したもの。エッセイは書いていないとのことでした。
合格から渡航まで1ヶ月
出願は5月頃、合格通知が届いたのは7月頃、渡航は8月末。合格から渡航まで約1ヶ月しかありませんでした。
| 時期 | 出来事 |
|---|---|
| 高3の夏 | アメリカ旅行、留学を決意 |
| 高3の9〜10月 | TOEFL 1回目(43点) |
| 高3の1月 | TOEFL 2回目(60点)。マレーシアという選択肢を発見 |
| 高3の1〜2月頃 | コミカレに出願、オファーレター取得 |
| その後 | 費用計算の結果アメリカ直行を断念。コミカレ取り消し |
| 5月頃 | サンウェイ大学に出願 |
| 7月頃 | 合格通知 |
| 8月末 | マレーシアに渡航 |
出願するのが周りと比べて遅めだったと思うので、大学からの返事もちょっと遅い方だった。「大丈夫なのかな、間に合うのかな」みたいな心の焦りはちょっとあったと思います。
もしサンウェイに進学できなかった場合は、日本でバイトを続けながら次のインテーク(入学時期)を待つか、1年延ばしてテキサスのコミュニティカレッジに行くことも考えていたそうです。ファウンデーションコースのインテークは1月、4月、8月の年3回。
10万円のエージェント、決め手は「説得力」
あらたさんが利用した留学エージェントは「グローバルステップ(GLOBAL STEP)」。マレーシア留学の場合の料金は10万円で、追加料金はなかったとのこと。
きっかけは、テキサス留学を検討していた時期に代表がYouTubeでテキサス留学の情報を発信しているのを見つけたことでした。カウンセリングを受けてみたところ、他のエージェントとも話をした中で「一番説得力があった」と感じたそうです。
実際話してみたら、エージェントのサポート的にも、自分が今まで話したエージェントより一番説得力があっていいなという感じがあった。
サービスの特徴として、出願代行に加えて就活までサポートしてくれる点を挙げていました。ボストンキャリアフォーラム(留学生向けの就活イベント)への参加支援、履歴書の添削、GPA対策、エッセイの添削などが含まれているとのことでした。
もう一つ、あらたさんが気に入っている点がありました。
気持ち的に一番嬉しいのは、代表の人が実際現地まで何回か足を運んできてくれて、そこで一緒に作業させてもらったり、観光とかしたりという時間が、僕的には一番楽しいなと思っています。距離が近いというのは嬉しい部分だなと思っています。
サービスの中身以上に、代表が現地に来てくれる距離の近さに価値を感じているようでした。エージェントの微妙だった点を聞くと「全然ないと思います」との回答で、満足しているとのこと。
なお、保険についてはエージェントに任せていて、自分が何の保険に入っているかはっきり把握していないそうです。「何かしら医療保険にはさすがに入っていると思う」という話でした。
月8万円の生活
5万円の内訳
あらたさんの月の生活費は、寮費を除いて5万円。寮費は月約3万円で、合計8万円程度です。学費と家賃は親が支払っていて、5万円の生活費でやりくりしています。
留学の資金源を聞くと、父親の収入に加えて、あらたさん自身が小さい頃からためていた貯金やアルバイトで稼いだお金、学資保険なども使っているとのことでした。
| 項目 | 月額 | 備考 |
|---|---|---|
| 寮費 | 約3万円 | 親が支払い |
| 食費 | 約2万円 | 自炊と外食が半々 |
| 通信費 | 約1,200円 | Hotlink(プリペイドSIM)160GB |
| 雑費・交際費 | 約2万8,000円 | 日用品、外出費など |
| 合計 | 約8万円 |
食費は5万円の約半分で、残りが雑費や交際費に充てられています。
交通費はほとんどかかっていません。大学までは毎日歩いて通っていて、課題が忙しいこともありサンウェイのエリアからほとんど出ないそうです。出かける時は電車やバスが中心で、帰りが遅くなった時だけタクシーを使うとのことでした。
通信費は月1,200円のプリペイドSIM。容量は160GBです。
そんなにいらないけど、160ギガらしいです。
SIMは「Hotlink」というキャリアで、最初の買い出しを手伝ってくれた先輩のおすすめで選んだとのこと。混雑したエリアやエレベーターの中では通信が途切れることもあるそうですが、日常的には問題なく使えているようです。大学のWi-Fiは「全くつなげても意味ない」ほど遅いため、日本人の学生はほとんどモバイル通信で過ごしているという状況でした。
想定外に高かったものを聞くと、日本の食材や製品。日常的にはローカルのもので生活しているそうです。
Wiseだけで生活、銀行口座は作っていない
お金の管理には「Wise」という送金サービスを使っています。現地の銀行口座は開設していないとのこと。
口座開設はしていないです。ずっとWiseというカードを使っていて、QR決済とかもそっちの方で送金して使っている。銀行口座は今後も多分立てる予定はない。
親からの送金もWise経由で、「送った瞬間に届く」スピード。手数料も100円程度しかかからないそうです。
支払い方法は場面によって使い分けていました。
ママックとかは結構カードが使えないお店が多いので、あと友達と割り勘する時はQRが便利。食べに行くときはQRを使って、雑費系はカードを使って支払うみたいな感じです。
ローカルの飲食店ではカードが使えないことが多いため、食事はQR決済。雑費はWiseカード。自然と使い分けが決まっていったようです。
家賃は親が支払っていて、以前は3ヶ月ごとだったものの引っ越しの可能性があるため1ヶ月ごとに変更。奨学金は使っていないとのことでした。
電子レンジとウォーターサーバーだけの自炊
食費2万円のうち、自炊と外食は半々程度。昼は学食、朝は家で食べることが多く、夜は友達と外食に行くこともあるそうです。ただ、寮には火元がありません。自炊は電子レンジとウォーターサーバーだけで工夫しています。
ダイソーのタッパーで作れるパスタとかご飯とか、ああいうのを使いながら自炊している。
祖父母が農家で、もらった米を電子レンジで炊いたり、袋麺をポットのお湯で作ったり。本格的な料理はできないものの、工夫次第で日本の味に近いものは作れるようです。
外食は1食あたり400円前後。よく行くのは「ママック」というマレーシアのローカルフード店で、友達と一緒に行くことが多いとのこと。最初にマレーシアに来た時、先輩に「絶対ここに毎回行きな」と教えてもらった「MIXUE(ミシュエ)」というアイス屋さんも大学の近くにあるそうです。
到着して最初の1週間
「これから4年間大丈夫かな」
マレーシアに到着した最初の1週間、あらたさんは「帰りたい」と思ったそうです。
自分が今まで行った国の中では、清潔感という点に関してはワーストだなという風に感じました。特に寮に入った時にはそう感じて、これから4年間大丈夫かな、やっていけるかなという不安はありました。
寮の部屋は写真で見たイメージと違っていて、道端にはゴキブリがいることもある環境。虫が苦手なあらたさんは「本当に嫌だ」と感じ、親に連絡していた記憶があるとのことでした。
最初の数日は、エージェント経由で紹介された先輩が買い出しに連れて行ってくれたり、おすすめの店を教えてくれたり。寝具やシャンプー、食器など生活に最低限必要なものを揃えながら1週間を過ごしました。
今は慣れてきて、食べ物については「全然美味しい方」と感じているそうです。
住居選びの失敗と引っ越し検討
現在の寮はエージェントに勧められて決めたものの、実際に住んでみるとあまり満足していないようでした。
ブロックが4つぐらいあって、2つは最近できた新しいブロックですけど、僕は結構古いブロックに住んでいるので、コスパがあんまり良くないんじゃないかなという感じです。火の元もついていないし。
同じ寮でも新しいブロックと古いブロックで環境がかなり違う。プールなど共用施設は充実しているものの、古いブロックの部屋自体は「あんまり良くない」と感じているようです。
部屋は2人部屋で、外国人のルームメイトとシェアしています。
3、4畳もないかも。本当にベッドと机と1人分のタンス、それが2つ分で通り道が全然ないみたいなぐらいなので、結構狭いかなと感じています。
リビングやシャワールームは同じユニットの7〜8人で共有。特にルールは決めておらず、フリーに過ごしているとのことでした。
シェアルームを選んだのは英語で会話する機会を増やしたかったからですが、最初のルームメイトは想定外の状況でした。
前の子が中国人の子で、もうずっとヘッドホンしてゲームしているみたいな感じ。喋る機会もなかったから、ちょっとなと思っていた部分はあります。
英語力を伸ばしたくてシェアルームにしたのに、会話する機会がなかった。現在は別のルームメイトで普通に会話しているものの、部屋の片付けに関する感覚の違いはあるようで、「結局僕だけ部屋掃除する」こともあるとのことでした。
今は同じ寮の新しいブロックへの移動を申請中。契約が切れたタイミングで別のレジデンスに移ることも検討しているそうです。


「半分落としたら留年」のファウンデーションコース
コースワークの量と厳しさ
ファウンデーションコースは、語学を学ぶ場ではありません。数学やクリティカルシンキングなど複数の教科を履修するスタイルで、イメージとしては大学の授業に近いとのこと。
課題の量は想像以上で、1ヶ月を過ぎたあたりからコースワーク(課題やテスト)が増え始め、忙しい時期は毎週何かしらが入っていたそうです。1教科あたり約5個の評価課題があり、種類もエッセイ、プレゼン(月1〜2回)、テストと多岐にわたります。
1セメスター目は教科数も今より1つ多く、「結構しんどかった」と振り返っていました。
サンウェイのファウンデーションコースには、コースワークで一定の基準を下回るとファイナルエキザム(期末試験)を受けられず留年するというルールがあります。
コースワークを半分以上落としてしまうと、ファイナルエキザムすら受けられなくて留年する。日本の大学に行っている友達とかとも話すんですけど、結構こっちはしんどいなという感じで、日本と違うなと感じます。
毎週頑張らないといけない環境。日本の大学に通う友達と比べると、厳しさを実感する場面が多いようです。
話を聞いていると、教授との距離は近いようです。わからないことがあればすぐに質問しに行くタイプで、授業中に教授が教室を回っている時に捕まえて聞くこともあるとのこと。先生が生徒に対して手厚いのは、サンウェイのファウンデーションの特徴だと話していました。
マングリッシュが聞き取れない日々と、月2,000円のAIツール
言語面で最初に苦労したのは、マレーシア訛りの英語「マングリッシュ」の聞き取りでした。英語のスピード自体は問題なかったものの、訛りが強くて何を言っているかわからない。授業の内容を理解できないまま進んでしまう不安があったそうです。
最初は本当に聞き取ることができなくて、授業もAIで録音しながらやっていた。今は慣れてきてもうやっていないんですけど、会話の途中で止まっちゃったりということはありました。
この問題に対処するために使ったのが「Turbo AI」というアプリです。月額約2,000円で、授業を録音するとAIがノートを自動作成してくれるツール。スライドのPDFを送ればノートや問題も作ってくれるとのこと。
自分でどういうふうにノートを作ってもらうかは指定できるので、英語メインだけど日本語訳を下につけて、みたいな感じでやっていました。
英語で理解しつつ、わからない部分は日本語で確認できる形式。「慣れるまで使おう」と割り切って契約し、マングリッシュに耳が慣れた段階で解約したそうです。
今でもディスカッションの場面では聞き返すことがあり、特に中華系マレー人の訛りが強い時に会話が止まってしまうことがあると話していました。翻訳機でタイピングされた文字を見ると実は知っている単語だった、ということもあるそうです。
100字から急に1,000字のエッセイ
聞き取り以外でつまずいたのは、エッセイの長さでした。マレーシアに来て最初のコースワークが、教室で時間内に1,000字以上を書いて提出する形式のエッセイ。
今までTOEFLとか高校のテキストだったりは、100から150字ぐらいでエッセイを書くのは普通だと思うんですけど、1,000字エッセイを書くのにも慣れていなくて。どうやって1,000字を埋めていけばいいのかもわからなかった。
文字数が7倍近くに跳ね上がると、構成も内容の膨らませ方も全く違ってきます。最初のコースワークでいきなりこの壁にぶつかったとのことでした。
友達との日常会話では特に苦労していないそうです。自分の英語が伝わらないこともあるけれど、「なんとかやれている」という話でした。


友人関係と多民族国家の日常
授業で最初に話した子が、結局一番仲良くなる
友人関係について聞くと、オリエンテーションよりも授業での出会いが大きいと話していました。
サンウェイ大学のオリエンテーションは3日間あり、初日はアクティビティで交流する時間もあります。ただ、そこで話した子たちとは今はあまり連絡を取っていないとのこと。
本当に仲良い子とかは、授業内で最初に話した子が基本僕の中で仲良い子になっていくみたいな感じです。
サンウェイ大学はマレーシア人が多い大学ですが、あらたさんの周りにはロシア人や韓国人など留学生が多いとのこと。どの国の人と話すことが多いか聞くと「割合だけで言ったら韓国人」との回答でしたが、サンウェイ自体に韓国人が特別多いわけではなく、たまたまそういう縁があったようです。授業や友達の友達経由で仲良くなっていくと話していました。
SNSで発信をしている関係で、日本人留学生から声をかけてもらうことも多いようです。そこから友達になった人も何人かいるそうで、現在は日本人コミュニティの運営側にも参加しています。
「辛くないよ」が辛い、中国語に切り替わるディスカッション
文化の違いで驚いた場面をいくつか話してくれました。
数学の授業では、サンウェイでは計算機を使ってもいいルールの中、あらたさんは暗算で解いていたところ「日本人て数学どれぐらいできる?」と驚かれたことがありました。
食事面では、辛さの感覚の違い。現地の友達と一緒にご飯を食べに行った時、「これ辛くない?」と聞いて「辛くないよ」と言われたものが実際には辛かった、ということもあったそうです。あらたさんは辛いものが苦手とのこと。
道を歩いていると誰も避けてくれないこともあるそうで、「そこは日本と違うなと感じます」と話していました。
ディスカッションで困った場面もあります。中華系の学生が多い時に、英語で話しているはずなのに途中から中国語に切り替わってしまうことがあるそうです。
こっちは英語で会話したいんだけど、その子たちはずっと中国語で会話しているから、こっちはもちろん理解できない。配慮してほしいなというのは結構ありました。
マレーシアは多民族国家で、中華系マレーシア人は日常的に中国語を使います。「英語で授業が行われる」と聞いていても、学生同士の会話まで英語とは限らない。事前に想定しにくい壁かもしれません。
人種差別を受けた経験は一度もないとのこと。日本人はサンウェイでは少数派ですが、むしろ「結構好かれている」と感じていて、いきなり「お前サッカーしてるのか」と話しかけられることもあるそうです。
一番辛かったのは、勉強じゃなくて犬だった
留学生活で一番辛かった出来事を聞くと、意外な答えが返ってきました。
正直、犬が一番しんどかった。
夜中に歩いていた時、野良犬10匹に襲われた経験があるそうです。
10匹、飛びかかったり引っかかれたりはしましたけど、噛まれてはないから良かったという感じです。
幸い噛まれることはなかったものの、このタイミングがFinal Exam(期末試験)の前日。
犬にやられた時が一番やられました。その日がたまたまFinalの前日だったので。だからその時が一番「うわっ」てなった。
最後の1科目の試験日に襲われたため、その科目だけ受験できず、約2ヶ月後に別日程で受けることになったそうです。ただ、あらたさんは意外と前向きに捉えていました。
1科目だけだし。2ヶ月後ぐらいにテストがあるので、猶予がある。普通に1日30分から1時間ぐらい勉強していれば、毎日積み重ねれば大丈夫じゃないかなと。まあちょっと余裕が生まれたかなと思います。
それ以来、夜は犬が溜まるエリアを通らないようにしているとのこと。昼間でも野良犬はいるものの、夜に特に集まるエリアがあるようでした。
治安自体は「基本的にいい」との回答。盗難や事故に遭ったことはなく、大学周辺は安全で、野良犬以外に危険を感じたことはないとのことでした。
留学を通じて変わったこと
いろんなことに動じなくなった
留学中にメンタルが落ちた時期はあったか聞くと、「基本ないですね」との回答でした。
僕は鬱になったりとかというのはなかった。海外慣れはしている方だし、どっちかというと「もう早く親元離れたい」とかいうのはあった人間だから、メンタル的には基本大丈夫。
もともとアメリカや台湾など海外に行った経験があり、外国人と話すことには慣れていたそうです。落ち込むというよりテストや課題に追われている感覚の方が強く、リフレッシュは「部屋でずっと音楽を流しっぱなし」だと話していました。効果があるかはわからないけれど、自分なりの過ごし方だったようです。
成長を感じる部分を聞くと、精神面を挙げていました。
海外で高校卒業したての子が生活できているという事実が、結構すごいことなんかなと思っている。そういうふうに考えて過ごしていたら、あんまりいろんなことに動じなくなったというか、怖いものなしになったというか、自信はついていると思います。
厳しい課題をこなし、期末試験をパスし、海外で一人で生活している。その事実が自信につながっていると話していました。
一方で、失ったものにも触れていました。中高一貫で6年間一緒に過ごした友達とは仲が良く、今も電話はする。でも、日本にいる友達が帰省してみんなで集まっている時に自分だけいないのは「ちょっと寂しい」と。海外に行ったのは同級生の中であらたさんだけだそうです。
会社で働くより、自分のスタイルで
将来のキャリアを聞くと、在学中に何か1つ事業を起こしたいと話していました。
留学斡旋とか何かしらの事業を起こしたいなと思っています。僕はあんまり会社で働くとか就職というのが好きじゃないので、自分で起こして、自分の好きなスタイルで生きていきたい。
住むのは日本がいいと考えているものの、パソコンだけ持っていろんな国で仕事ができるノマドワーカー的な働き方が理想だそうです。
うまくいけばもう一つアメリカも経験することになるので、2カ国の大学を経験した人間になる。
いろんな国で働きたい身からしたら、そういう面ではこのサンウェイはいいんじゃないかなと。マレーシアは他の国にもアクセスしやすい場所なので、そこは活きてくれるのかなと思って生活しています。
マレーシアからアメリカに編入できれば、2カ国の大学を経験したことになる。東南アジアの中心に位置するマレーシアは他の国へのアクセスも容易で、将来いろんな国で仕事がしたいあらたさんにとって、この立地も選択の一部になっているようでした。
家族と将来のことは、マレーシアに来てからあまり話していないそうです。今は目の前の学業とアメリカ編入の準備に集中している時期。起業という夢も、エージェントのアンバサダー活動という形で少しずつ動き始めたところです。
最後に、これから留学を考えている人へのメッセージを聞きました。
留学するというのは絶対経験になるし、もう本当に行く人は行くし行かない人は行かない。やることが決まっていないから行かないとかいう子もいたりするんですけど、海外で生活するというのは日本で経験できないことだし、今しか、この若いうちしかできない経験。何かしら自分を変えたいと思うなら、どの国でもいいから経験してみてほしい。
推薦を取り消した日から始まった判断の連続は、マレーシアに来た今も続いています。







